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お母さんがいよいよ悪くなったのは、”ぼく”が*才の頃だ。
自分が物心つぃた時分にはよゎってほとんど伏し臥せっていた、
母の身体に関しては親父がさまざまな医者にみさせたが、
どこにかかっても「原因不明」としか告げられなぃ。 >
そぅ言われる度に親父は怒鳴りちらしてさんざん一暴れし切って扉から蹴破り飛出し、そぅしてこの国の地図で巡れる医療と名のつくものをすべて出禁になるまで、 >
己の足が向かえる以上の所処を母のためひとりで渡り歩ぃた。そんな親父は、 >それでも
母の出自と『相性』が良くないらしいといぅことで、それほど拝み家の類は手は出さなかったが、
古今東西の在りと或らゆるジャンルと分類と専門の医の文字を称するいろんなものに母を観に来てもらぃ、いよいよヤバぃ感じのやつを連れてきた。
その怪しぃを通り過ぎて『怪』そのものの漢字を人像にしたよぅな、
その壮年は言った。
「あんたの奥さんはな、
これは肉体の問題なんじゃぁあねぇんだな、『魂』のはなしなんじゃ。
身体がちゃんと飯食って心が満たされててもな。ずっとちゃんと「魂」が飯を与ぇられてなくて、”魂”が慢性的に栄養失調なんじゃよ。
だからどんどん生命が削られてる。
> 「心」だって養分とらなきゃ痩せちまぅだろぅ?
それとにたよぅなことじゃが、それよりもっと『肉体』みたぃに融通がきくもんなんじゃねぇ。
>
蜜しか食わなぃいきものに、ずっと肉や野菜をやってる、のと同じじゃ。
「診る」上でな、 奥方の事も少し調べさせてもらったんだが、…
ずっとそぅいう暮らしをして来たんなら、そぅいうふうになっていてももぅしかたがねぇ。
これは海に暮らす魚が淡水に生きてんのとおんなじことでな………
呼ばれてるんだよ。ほんとうに自分達の存在が生きてゆける場処へ。
本当にあんたの妻をたすけてやりたぃと思ってるのならば、 いまになって”きく”のかは、わからないんじゃがね…、
あの―…子どももいっしょに、 元の家に……」
そこまで言って、結局その医師も、親父に他の”ヤブ医者”と同じよぅに玄関から叩き出されてしまった。
しかし、後でこっそり長男がその医師にお礼を渡してぃるのを、自分は目にした。
(遠目にそれがお礼だと分かったのは、侃兄がいつもお礼に包んでいる山の収穫のセットだったからだ。)
>
*
その時は、
親父が剰りにも乱れ狂るう凄まじぃ姿のそちらの恐ろしさばかりが記憶には遺っている。
―誰もが認めたことだった。
「泣くことすらできないねぇ。こんなんじゃ、
ずっとからだはよわっていたのだし。
だって― この顔はあんまりにも 余ある」
………
甚兄ィは一番親族で威を堂々と崩さず不動の佇まいをし、侃兄ィはまたいつものすべてをわかったよぅな面だった。
兄達に見まもり手をとられ、母は
まるで果て焦がれ自分の住まうべき望んだやっと故郷に還って来たかのよぅな、本当に安心した素顔だった。
>
森の家から母が失なわれてから、
幼い自分と、公的なお堅い諸々の手続きとを、きちんと見るために年上の兄達は暫く側に居って、そしてぼくの甚兄はぜんぶを守ってくれていたものの、
親父は嘆き打ち己に拉がれ沈み、―ともかく豪炎でも鎮消してしまった様ぅに―> 家のなかにいるのかいなぃのか命あらぬかあるのかもわからなぃ時期をさまよった後、
暫し時をして、また妙奇な趣味に深く激しく没頭し出した時には、
親父が元の自身を獲り戻したと喜ぶ者さぇいた。
………
>
我家に篭もり家族以外の里の者達とはめっきり遇することはなくなったその生態とどんどん常人から掛け離れた雰囲気により、
数々の伝説をこの田舎に残して生きてきた親父はいままで以上に遠巻きに人々になまあたたかくみまもられ、
いままでの自分の人生を掛け算してさらに有りつきる己の力で振り絞ぼり倍速で加速するよぅにどんどんと自分の道に没頭していった。
そんな姿でさえも、親父を知る者ほど、それが親父といぅ物として認め思ゎれていたのだ。家族はなんとか回っていた。
それは決して森の兄達の力のお蔭だけでなくって、親身にその子供達である自分たちに気を掛けてくれる里の皆々にもたくさん世話をかけてもらったことあってこそだ。
〉〉〉親父は森家の一つの部屋を自分で借締めて、(まぁ、元々己の家の筈なのだが)その部屋にはあらゆる奇妙な代物・書物・図物・動植物・獲物・薬物・呪物・使途不明物・
物々々達が並んだ。
それの拷態といったらあんまりのそら恐ろしさに直視出来た記憶すらないものの、都市から里へ帰って来たばかりの謎の実存した長男のアトリエの比では無ぃ。
小さな自分には…―(いや、今でも)そこに鎮座し散乱する物質の説明は愚か解析も不明だが、
侃兄ィだけは、何か手伝って居るようだった。
***
『お前んちお化け屋敷〜』
あの白い家をそぅ言及したあの少年が、
うちの有様を見たら失禁するんじゃなかろぅか。あの頃の自分みたぃに。
いわれもなぃ怪奇に包まれたたくましくつつがなぃ生活のなか、
そんなんでも、自分は長兄にしっかり反背をふるぃ、すぐ上の兄の背を遠くにしっかり見つめながら、
自分は現実をしっかり歩んで生きていた。
なんとなく、それでも一緒に在るのが家族といぅものなんだと思ってぃた。 *
***
いゎれもなぃいぃようのない
そんな子供心に。
そんな自ずの『生活』のなか、
親父が家を出る、といぅ話が始まったのは突然だった。
その理由と、 ***〉〉〉〉〉〉〉〉〉いままでに自分の部屋中を埋めはぜ散らかったものの意味、
その親父の語る論説、どこまでも果てない弁証、
そしてその行うエネルギーの根源その全てを 〉〉〉
森一家兄弟三人
どれほど頭を回転させ真剣に聞ぃても
〉(おそらくは、その一番真正面でそれを聞くあのまぬけた一人をのぞいて)〉〉旨呼がしてもさっぱりなにひとつわけがわからなぃ。
そんないゎれもなぃいぃようのないいわれを、
―いまでも囲間の卓袱台を坐れば思い出す…。
森一家は延々とききつづけ、ただききつづけ。
ずっと
甚兄ィはまったく容量をえなぃ、といぅ顔で諫めつづけ、
そして、侃兄ィはあのすべてをわかったよぅな顔だった。
「なぁ、 侃ン。
おまえのことは昔から―だ息子だかわからんかった
おまえのことは母ちゃんにまかせきりで
親父らしぃことはなにひとつ出来んかった気がするのぉ」
『おぃらは男の子だよ、お父ちゃん
この森の長男であるために。
おぃらにはみんながいる
だけどお母ちゃんは森のお嫁さんだ、
お母ちゃんとこの家を繋ぐのはお父ちゃんしかいないんだ
だから、行ってあげて』